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18世紀の弓・楽器事情について Part-3



18世紀に行われた楽器に対する変更は駒や指板、ネックの角度にとどまらず音を根本から変えようと板厚を変える大改造も行われた。タルティーニが生きた時代のパドヴァには優れた職人がいて、二人三脚でタルティーニの音楽を支えた。アントニオ・バガテッラ(Antonio Bagatella)という。バガテッラが遺した製作に関する著書にはタルティーニとのやり取りが記されており、タルティーニや当時の弦楽器事情を調べる人にとって貴重な資料となっている。バガテッラは1740年前後から30年以上にわたるタルティーニとの関係の中で自身で作った楽器を提供し、 またある時はタルティーニから依頼を受けてアマティーやストラドなど数えきれないほど多くの楽器をオープンして削りに削った。“人の声のように”、‟銀の声で“といった依頼がタルティーニ本人からその都度あり、2パターンの板厚グラジュエーションを使い分けたという。タルティーニは古い楽器のディーリングをしていたことも明らかになっており、多くの楽器がこの時代に音楽家に指示を受けたバガテッラや同時代の職人達によって削られている。


Giuseppe Tartini

古い楽器を手にするメリットがもしあるとすれば歴代の所有者が選別し楽器を育てた、或いは調整をしつくした結果を手にすることにあると思う(古いだけで全くダメな楽器や弓も勿論多々ある)。弓は作り立てがベストというのが弓に携わる多くの人達の見解である。ペルナンブーコやエボニーは経年変化で音が良くなる類のものではなく、改造などで音が良くなることがあったとしてもオールドの良いとされる弓は昔から変わらず良かった筈だ。楽器本体はもう少し事情が複雑である。木材の経年変化はもちろんあるが、新作の楽器であっても調整次第では古い楽器のような音を作ることは出来て、日本国内にも何かを掴んだかのような楽器の調整を出来る人達がいる。新作で今鳴るように焦点を近くに設定し過ぎると5年後、10年後にはピークアウトするのではないかと言う人もいる。彼らが作る楽器が100年、200年後にどうなっているかは定かではないが、そんなことは確認できるはずもなく、今を生きる奏者にとってはどうでも良いことなのかもしれない。18世紀にバガテッラ達の行った古い楽器の改造は結果としてさじ加減が良かったのだろうが、削り過ぎて人知れずダメになった楽器も多々あったことだろう。

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