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ペルナンブーコと比重Part2-19世紀前半のチェロ弓について


“羽のような弓”とはこのことではないか。ここ最近昔の古いチェロ弓をみる機会が続き、この言葉の意味についてあらためて考えている。どの弓も弾きやすいが、ビオラ弓並みに軽いのである。


19世紀前半に作られた古い弓の多くは、文字通り“羽のように”軽い。木取りの仕方は異なるものの、昔イロハも知らない駆け出しの頃に見たフランソワ・トゥルトの金鼈甲のチェロ弓も同じような材料を使っていた。トゥルトのチェロ弓はかつてロンベルクが使用していたことで知られている。軽くてある程度強度のある材料で、色は紫外線の影響でおそらく色褪せている。ゴーラもフランソワ・トゥルトもペルソワも同じような材料を使っている。これは時代で分かれているという訳ではなく、レオナール・トゥルトやペカットはもう少し重い材料を好んで使ったようなので、メーカーごとに好みや得意とする比重があったと思われる。フランソワ・トゥルトやペルソワがよく使っていた材料には今の職人達が見向きもしないような軽い材料もあり、きっと今でも世界各地の工房の片隅に埃を被って眠っているに違いない。昔のような材料が採れなくなったという話の半分は本当で、残りの半分は音楽事情によって弓に求める性能が変わったことがある。職人達は昔のメーカー達が使っていた材料で弓を作らなくなった。そのような材料が現在無いわけではない。


20世紀初頭にウーリッツァーで購入したというドイツで作られたバイオリンの弓を最近見たが、銀糸巻きで52gmであった。銀線を巻けば5gmは重くできるが、当時はまだ52gmでよかったのだろう。重い弓が皆に好まれるようになったのはつい最近で、20世紀になってしばらくしてからである。かつてベルナール・ミランがバイオリンの弓は55gm~65gm、ビオラは65gm~75gm、チェロは75gm~85gmだと言っていたことを思い出す。ミランの若かりし頃にはまだまだ色々な弓があって、その分だけ色々な音や演奏があったと思う。皆が同じような楽器と弓を持って同じように弾いたらそれはきっとつまらない。古い弓を見る度にそう思う。


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