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オールドボウとの違い Part2-材料、よもやま話



ジャーマンボウやフレンチボウといった違いはどこからくるのかと考えると、製法の違いは勿論あるが、それを演奏し評価する奏者の演奏スタイルや好みに尽きると思う。19世紀から20世紀の演奏が当時作られた弓を生んだわけで、材木業者はその需要を満たす為の材料を集めた筈だ。フレッチナーやニュルンベルガーが使っていた材料は、2007年頃までドイツのナーゲルという材木商が扱っていたものに近かったのではないかと今では思う。あのような弓をイメージして扱う材料を集めていった結果、ドイツには似たような材料が集積されたのではないか。


今の我々が手にしている材料も古い材料に違いなく、かつて失われた森のどこかに生えていたものだ。職人の性で材料は生涯集め続けるわけで、当然次の世代へバトンを渡すべく材料も受け継がれていく。サルトリーやウーシャの遺した材料の中にはトゥルトやペカットが手にした材料もあったことだろう。昔の材料と今の材料は違うという主張について、かつては「そんなことあるものか」と思っていたが、何かしらの違いはあってもおかしくないと今は思う。弓職人が手にする材料の密度や強さは今も昔もさほど変わりがない。比重でいえば0.9から1.3ぐらいまでである。メーカーの材料選びの基準が変わったこともある。トゥルトやゴーラが一時期使っていた材料はとても軽いものであり、軽い材料は今でもあることにはある。ただサルトリーやウーシャ、バザンといったメーカーが遺した材料の中には、今のメーカー達が使っているものと明らかに性質が異なるものがある。自分が試したものではサンドペーパーをかけると粉の色が濃いオレンジで、仕上げのフレンチポリッシュでニス布にシェラックを付けてスティックを一拭きすると布があっという間にオレンジ色に染まっていくという材料がある。20年近くペルナンブーコに触れてきたが仕上げの段階までずっと色が出続ける、そんな材料には出会ったことがない。「ああ、これはきっと開拓初期や中期に失われた森で採れたものだろう」と今は考えていて、森が失われたことをあらためて実感するのである。ブラジリン色素と音響効果については研究が為されているが、その材料で作った弓は確かに音の響きが良い。自分がわかっていることは古い材料の中には色素の多いものがあるということぐらいだが、まだ見ぬ材料の中にはまだまだ性質の異なるものがあるのかもしれない。


目を現在の材料状況に転じれば、なんとイペでさえ昨今規制の対象となり、高級木材の仲間入りをしようとしているではないか。秋刀魚が高級魚になるようなものかと成り行きを見守っている。イペが規制対象になるのであれば、メープルや黒檀が更なる対象にならない訳がない。音楽家の国をまたいでの移動に楽器のパスポートが必要になる話も現実味を帯びてくる。CITESのレポートでは植樹をして育った木を最近5本だけIBAMAの許可を得てカットして、現地の弓メーカーが弓を作ったという。入門用の弓であれば十分使えるものであったというが、持続可能なシステムが出来るのはまだ先のことだろう。今ある材料は丁寧に使い、古い弓はメンテナンスと修理でなるべく温存して皆で守っていくべきだと思う。



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