「弓の巻皮一つで弓の操作性は変わる」
これは長年、弦楽器と向き合ってきた方であればよくご存知のことだと思う。弓の調整でまず行うのが反りの調整である。摩耗によってスティックの寸法が変わってしまい全体の反り形状が変化している場合や、毛をずっと張った状態にしていた、長年の使用で徐々に反りが抜けてしまったなど色々な理由があるが、反りの調整をすれば見違えるように“弾ける弓”になることがある。特に古い弓は現在に至るまで使われ、残っているのはその弓が“弾ける弓”であるか、かつて“弾ける弓”であった可能性が高い。あれこれやって何とかなる確率も高いのだ。弦とのコンタクトを失うような箇所は反りが抜けていて真っ直ぐになっている場合が多いので、信頼のおける職人に反り調整をしてもらうと良い。
次に行うのがバランスの調整だ。中央値は18.5㎝とされているが、弓は天秤のようなもので奏者とその弓にとってベストなバランスはきっとそれぞれある。ちょっとした重りを手元や先端に仮付けして試してみるのも良いだろう(バランスの測り方については以前のコラムを参照)。ラッピングの重量を試算するのによくやるのは、0.5gm刻みで重りを足していき、演奏性が一番良い重量を探るというものだ。あるところまで足していくと途端に演奏性が良くなるがさらに足していくとまた悪くなる。総重量との兼ね合いもあるが弓の演奏性にとってバランスは非常に大事だ。
そして最後にサム・レザー(親指のレザー)の厚さを調整する。反りとバランスを直して、まだ何ともままならない弓も中にはある。そんな場合には巻皮の厚さを調整することで演奏性が改善する弓が過去に何本もあった。ちゃんと調査をした訳でもなく上手く表現できないが、弓の弦に対する角度が変化したか、弓の軌道が変化するからではないかと思う。特にスティック手元の寸法が8.3㎜を切るような弓ではやや厚い皮を巻いて太くしたほうが弓はうまく機能するようである。手の大きい人、小さい人で必要な厚みは異なるので色々とご自身で試してみるべきだ。
さてそのサム・レザーについて最近思わずハッとする出来事があったのでご紹介したい。
あるバイオリン奏者の方は長らくサム・レザーを使用していない。代わりにスポンジのようなゴムで出来たペングリップを自分で買ってつけているとのことである。巻皮は消耗品で長時間、演奏する方であればすぐに減ってくるし、接着剤で固定する為、クリーニングなどに手間がかかり費用もかかる。皮が減ってくればスティックが露出し、今度はスティックがえぐれていくので皮交換は定期的に必要となる。巻皮の上からゴムのグリップをつけるような製品もあるが、「そもそもそれなら巻皮いらなくない?」という彼女が出した答えに思わず納得してしまった。爪が当たって痛いという方や手が小さ目の方、そして手首を痛めてしまった方にもお勧めである。色々なサイズや形があるので今後色々試してみるつもりだ。