かつてベルナール・ミラン(Bernard Millant 1929~2017)がある講演で、バイオリンの弓の重量を55gmから65gmと述べたことがある。現在の重量基準(約58gm~62gm)からすると、まあなんとアバウトなことだろう。当時のミルクールやパリでは現在のメーカー達が用いるような素材の選別方法は勿論なかったが、勘と経験を頼りに作ってもこの大まかな基準であれば合わせることができたということだろう。結果として64gm、65gmといったバイオリンだかビオラだか定かではない弓が作られることとなり、修理でそのような弓の重量調整の依頼が入ることがある。
重い弓の重量調整はまずラッピング(銀線)の太さや長さを変えたり、銀糸などに変えることからはじめるが、アジャスターのスクリューをチタン製の物に変える方法などもある。バイオリンの弓をチタン製の物に交換すると約1gm軽くすることが出来る為、あれこれ手を尽くした後に最後の手段としてこれを使うことがある。
逆に軽い弓を重くする為にはラッピング交換の他、巻革の下にタングステンシートを巻く、ヘッドのフェースプレートを金・銀に変更する、フロッグやアジャスターのボタンにタングステンの重りを仕込むなど色々な工夫をすることが出来る。タングステンの重りはマット・ウェリング(Matt Wehling)が製作の際にフロッグの金具を取り付ける前に仕込むことがあると以前話していた。バス弓では都内の専門店(山本さんかジミーさんのどちらか忘れてしまったが)で真鍮をボタンに入れて重くしているのを見たことがあるので、色々な方法がある。重量調整で唯一出来ないことは先端を軽くすることである。もしこれを実現する為にはスティックの先端を削らなければならないが、逆に手元に重りを付けることによって手元寄りのバランスにして弓の印象を軽くする方法もある。弓の操作性にとっては、実際の重量よりも重量が弓のどこにあるかのバランスが最も重要なのである。
アトリエでは各種重量調整を承っております。チタンネジへの交換には、ネジの長さやピッチの確認の他、偏芯を防ぐ為のブッシングが必要となる場合がございますので詳細はメールフォームにてご相談くださるようお願い致します。