弓の進化で何が起こったのかということは、漠然と古い弓だけを眺めていてもよくわからない。素人ながらに音楽の歴史や出来事と当時作られた弓の特徴を結び付けていくと、より鮮明に流れが把握できて面白い。18世紀末から19世紀初頭にかけて音楽(音楽家)が楽器を変え、楽器が音楽を変えたと言えるイベントが数多く起こる。特にベートーベンは音楽家に難度の高い要求をして可能性を色々試した(困らせた)ことで知られている。弓についても彼と周辺の音楽家達にまつわる逸話が多くある。
コントラバス奏者のボゾ・パラドジーク(Bozo Paradzik)とピアノのハンスヤコブ・ステムラー(Hansjacob Staemmler)によるベートーベンCello Sonata Opus 5 No.2の演奏動画を観ていると、コントラバス奏者のドメニコ・ドラゴネッティとベートーベンがかつて行ったとされる演奏セッションの情景が目に浮かぶ。「ドラゴネッティがチェロの曲をこれだけ弾けちゃうんだから」と当然なるわけで、独立した地位を得ることとなる。
以前とあるコレクションにて、イギリスで作られたドラゴネッティスタイルのバス弓を手にしたことがあるが、今の感覚からするとまるで“ノコギリ”のようでショックを受けたのを覚えている。しかしどんなに原始的な道具に見えてもそれで出来る事は意外と多くあるということが最近ようやくわかるようになったと思う。ドラゴネッティも一見すると原始的なこの弓でチェロのレパートリーを難なく弾いてしまったのであるし、今日ベートーベンの第九を聴くことができるのもこの弓のおかげなのだ。
続く
参照:Christopher Brown “Discovering Bow for the Double Bass”