クリップインタイプの弓を作り始めた当初より疑問に思っていたことの一つに、材料の選択がある。現存するクリップインの弓をみると、スティックにはスネークウッドやアイアンウッドなどのハードウッドを使用しているが、フロッグには多くの場合、ペアウッドやプラムウッドなどのヨーロッパ原産の果樹、或いはボックスウッド(セイヨウツゲ)などが使われている。クリップインの場合、何度もフロッグを取り外し、装着するので摩耗を防ぐ為にはスティックに使われるようなハードウッドで本来作るべきだ。しかし17世紀後半から18世紀前半に作られた弓を見ると、実際にはスティックに比べ柔らかい材料で作られているケースが多い。これに対するはっきりとした理由は今となっては誰にも分からないが、個人的には音の違いがあるのではないかと思う。バイオリンでもテールピースや顎当てなどのフィッティングの素材を変えると音色が変わるように、弓のフロッグの素材や重量を変えることで音は大きく変わる。同じ弓でも黒檀のフロッグでは芯のある音になり、ペアウッドやプラムウッドのフロッグに変えるとオープンで柔らかい音がするようになる。
以前、弓職人のRobert Morrowさんが小田原に来た際に「弓のピッチを楽器に合わせて思うように変えることが出来たら素晴らしいと思わない?」と話していたことを最近よく思い出す。当時は何を言っているのかよく分からなかったが、今ならわかる。いつかポート・タウンゼントに行ってこの話の続きをしてみたい。 スペアのクリップインフロッグの製作を承っております。メールフォームよりご連絡ください。