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弓のかたち-ドングリ


Judith Leyster

バロックボウとそれ以前の弓との違いは毛束を収納するモーティスが弓先にできたことにあって、前期に作られたバロックボウの中にはドングリのような形状をしたものがある。弓における第一の進化は毛束を先端に括り付けただけの状態から、木のプラグを使って弓の先端にできたヘッドにしっかりと留めたことにある。前述のスラックラインで言えば、(弓先の)片方のテンションが上がることとなる。



毛束に結び目を作って先端に引っ掛けただけの弓でも、ちゃんとバランスを調えればしっかりと弾ける弓ができる。現存する最も古い弓で先端に毛束を引っ掛けるタイプのものが博物館に遺っている。短く細いものと長く太いものがあり、ルネサンス末期からバロック初期においてそれぞれバイオリンサイズの楽器とチェロサイズの楽器を弾いていたものだと思う。先端には象牙や骨などで出来たキャップを取り付けられるように出来ており、木で出来た部分と合わせるとドングリのような形状をしている。キャップには弓先を保護すると同時に重りとして弓のバランスを調える役割があり、絵画表現では使用を確認できるものの、実際には取れやすく激しい演奏や度重なる毛の交換に適したものではない。この解決策としてこれを作った工房ではキャップを付けた形状をそのまま模してドングリ型のヘッドを作ったのだと思う。時代で言えばカルロ・ファリーナが弓奏のフロンティアを拡げつつあった時か、その少し後ぐらいのことだ。もう一つこの時代に起きたマイナーな変化としてクリップインのフロッグの先端が切りっぱなしの状態から、Vの字や凹型に変わり演奏時にフロッグがズレないようになったことがある。弓では前例に倣うことがよくあるので、ヘッドにモーティスが出来て木のクサビで毛を固定するようになってもしばらくの間、アウトラインはそのままドングリ型の引っ掛けるタイプのものを使用したのではないだろうか。ヘッドの底面が丸いので弓先においてヘアリボン(毛束)が湾曲していて、弦に当てて弾いた感じが面白い。

どんなに変わった形の弓でもモチーフやそのようになった経緯がある。しばらく同じ時代を眺めていればきっと見えてくるものがある。

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