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19世紀の弓-モダングリップとサムレザー

巻革をラッピングにつけるようになったのはいつ頃からなのか、当時の資料を調べているがまだこれという証拠となるようなものが出てきていない。シュポアやバイヨは親指をフロッグの先端に当てるモダングリップを推奨しているが、実際にモダングリップが広く普及していくのはサムレザーと呼ばれる革を巻くようになってからである。

テレサ・ミラノロ/出典:L 'Archet:B.Millant,P183

19世紀に妹と共に一世を風靡したテレサ・ミラノロ(Teresa Milanollo 1827-1904)がバイオリンを構えている有名な写真があって、この時代のグリップに関しての資料として使われることがある。写真の中の彼女は弓のフロッグから数cm離れたヘッド寄りの箇所を持っている。コンセルバトワールでは譜面台に対する立ち方なども細かく示し、人を型にはめていくような指導が行われ、モダングリップを教えたが目印や支点となる巻革が無ければ、人は自分にとって最も自然なバランスとなる箇所を持つわけで、サムレザーがいつ頃使われるようになったのかが一つのポイントとなる。

弓のラッピング

職人として幾つかわかっていることもある。ラッピングには2本のシルク糸を使いシンメトリーなパターンをつけた糸巻きのものがある。多くの場合、パターンをナイフで弓に直接刻んでおくが、ある時期から革を巻くことを想定し革の分だけパターンを前方にずらしたアシンメトリーなパターンを使うようになる。ある弓職人によればボワラン(Francois Nicolas Voirin 1833-1885)の弓でシンメトリーなパターンを刻んだ弓を幾つか見たことがあるそうで、彼の時代ぐらいまでは巻革をつけることがなかったという。時代は下り、サルトリー(Eugene Nicolas Sartory 1871-1946)のオリジナルのラッピングは革を巻くことを前提としているので、ボワランからサルトリーまでのどこかで革を巻くようになったに違いない。ラミー(Joseph Alfred Lamy 1850-1919)が活躍した1890年代であったのではないかと思う。ボワランとサルトリーではスティックのモーティスの位置が異なる。サムレザーを巻くことが一般的になり、多くの人が手元を持つことになった為にヘッドが重いと感じる人が増えてフロッグを少し前方にずらして対処したのではないか。

スティックのモーティス

レオポルト・モーツァルトが18世紀に推奨していたグリップがようやく定着したのは19世紀末のことであり、人の習慣を変えるには顎当てなどと同様に物質的な変更がないとなされないらしい。今では現在の演奏に飽いた人がいて、型からの解放を求めて一つずつ足されたものを外していく人達が一定数いる。今後どの様になっていくのか見当もつかないが、楽しみにしたい。

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