コンセルバトワール出身のベンワー・ローランが作る弓にはしなやかさがあり、人によって好みがはっきりと分かれるが私は彼の作る弓がとても好きだ。
ベンワー・ローランがもう何年も前にVSAの講演で演奏性の異なる2つの弓を説明する際に、弦に対して毛束が点で当たるか、或いは弦を包み込むように面で当たるかによって音色が変わるという話をしたことがある。誰かに弓の演奏性について説明する際、私は決まってこの話をすることにしている。強いスポーツタイプの弓では毛束が弦に対し点で当たり、どちらかといえばはっきりとした、かたくて高い音になりやすい。
しなやかさのある弓では毛束は弦に対し面で当たる為、音に深みが出る。また、スティック自体が強いガチガチの弓であってもヘッドやフロッグを高くすれば、あそびが生まれ弓毛の巻き込みが起きやすくなる。これはモダンボウであってもバロックボウであっても変わりがない。どちらのタイプの弓を使うかによって弓と腕の軌道や体の使い方も変わってくる為、演奏を遠目で見ていても何となくどちらのタイプの弓を使っているのか想像が出来る。どちらの弓にもそれぞれ得意なこと、苦手なことがありどちらの弓がより良いというわけではない。
ヴィジュアルダイナミクスという言葉がある。そのまま訳すと視覚的力学だが、視線誘導や強弱の表現という意味もある。何かをパッと見て引き込まれるような物にはヴィジュアルダイナミクスが必ずある。ローランやロバート・モローさんをはじめ多くの弓職人に弓を見せると必ずこの話になる。“急速に加速するカーブ”、“この線の行き先”など絵画を批評するかのように弓を見るのである。
弾きやすく使える弓であることが大前提で、演奏性にはスティックの削りなどに比べさほど関係のないことだが、現代の弓職人の多くは弓をアートとしても捉えており、ヘッドやフロッグの細工には彼らの世界が詰まっている。点と面と線に注目して弓をぜひみて頂きたい。