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弓の見方

ある弓がどのような音がするのかというのは実際に弾いてみないとわからないが、試奏前に分かることも幾つかある。人によって手順は異なるが弓を見る時には一連の作法がある。



まずフェースプレートの先端に指を添え、ニスに手が触れぬようにしてヘッドを一周ぐるりと見る。立体の作り方、チャンファ―のカットの仕方、古い弓では修理の有無などをチェックする為だ。立体の作り方では、例えばプカットとアンリではヘッドのチークの削りが異なるのでそれらをまず見る。

次にフロッグを一周ぐるりと見る(最初にこのような見方をする人に出会うと我々は思わず身構える)。毛を張ってストレートや反りをチェックした後、ネジを外しネジ穴の精度を確かめる。古い弓ではネジとネジ穴にガタツキがないかを見るが、新しい弓であっても精度良く加工してあれば演奏性に期待が持てるからである。

かつてベルナール・ウーシャ(Bernard Ouchard)がミルクールにて弓作りを教えた際に、ネジ穴のように見えないところにこそ細心の注意を払って作りなさいと生徒達に教えたこともあり、この系統の人達は決まってこの話をするのである。自分の知る限り、見えない箇所であるネジ穴やアリ溝を最も精度よく作る職人はステファン・トマショーである。弓職人は数多くいるが、開けてみるとそこそこの精度であることがある。弓の好みは人それぞれであって、トマショーの弓より演奏性に優れた弓はあると思うが、単純に加工の精度においてトマショーの弓は人の手仕事における一つの到達点だと思う。


最後にスティックを回転させながら手で触り弓のクロスセクション(断面)がどうなっているか確かめる。メーカーによって立体の作り方が異なることと、古い弓であれば修理の痕跡を見つける為でもある。もしどこかで接いであれば、その箇所を削って均してあるので目視だけではなく触って確かめる必要がある。メーカーごとの特徴としてトゥルトの弓はどちらかといえば縦長の楕円であり、プカットの弓はおむすび型をしている。

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出典:French Bow Makers-Anton Lu P35

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ヴィニェロンがリュシアン・カペ(Lucien Capet)の為に作った弓も、大きく見れば三角形をしているが、イザイであれば別の形を考え、それぞれの職人においても音楽家達とのやり取りの中で作る弓の形を変えていたことがわかる。縦横の寸法も大事であるが、斜めの削りをどう考えるかによっても演奏性は変わる。おむすび型のメリットは見た目がほっそりとした弓にしては安定感があることだと思う。クロスセクションを真ん円にすれば、しなやかさがあって振動をよく伝えるようで響きが良くなる印象がある。縦横の寸法差が0.4mmを超える箇所では反りを整えても演奏中にその箇所で違和感が残ると、ある製作者が以前話していたが縦横の寸法はなるべく近いほうが演奏上良いのではないかと思う。


弓を見る際にこれらのことを頭の片隅においておくと、表面の仕上げにとらわれず、普段と異なる視点で弓をみることができるのではないだろうか。

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