弓のエキスパートの人の中には、棹を回しながら手で触って弓のクロスセクション(断面)の形状を確かめる人がいる。メーカーによってクロスセクションの形状が異なることを彼らはよく知っているからである。弾いていても違いは確かにある。完全な丸弓は全方向にフレキシブルなのに対し、八角の弓ではその方向が限られている印象がある。弓の強さで言えば丸弓でもガチガチの弓があり、角弓でもフレキシブルな弓はあるが、動く(力を伝えやすい、曲げやすい)方向は立体をどう作るかによるのだと思う。目を閉じて弾いて弓の断面の形状が何となくでも分かるようになったら立派な弓の専門家(マニア?)と言えるのかもしれない。
バッハの活躍した時代に楽器や弓を作っていたキャスパー・シュタッドラーのビオラダモーレのクリップ・インの弓は、弓の前半分が丸で後ろ半分が八角形となっていて、弾いてみると弾き心地が途中で明らかに変わるので、竿の形状が変わる箇所がブラインドであってもよく分かる。サンドリーヌ・ラファンが作った下三面を残して上を丸めた変則的な弓は、角弓と丸弓のちょうど間ぐらいの感じであって面白い。ドミニク・ペカットの弓は横広の三角形をしており、いつぞや見たフェティークの作った3/4の弓は縦に押し潰したような完全な楕円であった。横を意識したこれらの古い弓はレスポンスが良く、しなやかさはあるものの、横寸法を十分に取ってある為か、十分な強さがある。製作においては縦横の寸法を合わせるように教わるがそれはあくまで基本であって、弓の形には色々な“解”があることに後々気付くことになる。1年に何度か面白いと思う弓に出会う機会がある。来年はまた面白い弓を見ることが出来るだろうか、楽しみにしたい。