アメリカのレイシー法(Lacey Act)は1900年に上流階級の女性が身に付けていた鳥の羽をあしらった帽子が流行したことで起きた乱獲を取り締まる為にアメリカで制定された最も古い環境保護法で、今年の12月1日からは楽器や弓の完成品にまで拡大されるようになる。アメリカに商用で輸入される全ての生物由来の物に対し詳細なドキュメントを付けなければならなくなるので、今年のVSAのコンベンションで多くの時間を割いて注意喚起をしていた。輸入業者から販売先の顧客まで流通に関わる全ての人が対象となり、違反すると懲役や多大な罰金を支払うことになる。原産地国は?学術銘は?持続可能な資源であるか?それらを証明するドキュメントがあるか?などの様々なことを自分で調べ、それらを記録として残していかなければならない。EUDR(EU Deforestation Regulation)は欧州森林破壊防止規則といって輸出、輸入において森林破壊をしていないものであることを証明しなければならず、DNAテスティングもやるとのことなのでチェックは厳しいものとなる。大企業のみならず、実施時期が少し遅れるようだが個人の楽器製作者も数年内には対象となる。温暖化や生物多様性などEUが重視する問題に合致するものであり、アメリカのレイシー法と併せて国外では生物由来の物に対する規制が強化される。
この先に起こることとして、商用ではない場合であっても楽器や弓には全て原産地証明書やパスポートを付けて海外渡航をするようになるのだと思う。今回の規制の内容は以前より議論されていたことで、パスポートの話もずいぶん前から議題に上がっているからだ。IPCIなどが我々が使用する材料をCITESカテゴリー1へ移行させない為に描いたプロット通りに進んでいるとも言える。我々が出来ることとして、今から購入するものに関しては原産地国や材料の学術銘をおさえておくことと、今持っている物に関しては購入の履歴や現時点でわかり得る全ての事をドキュメントとして残しておくことだ。今やっておくことで将来どこかの空港で差し押さえられて粉砕されるなどということを防ぐことが出来る。植樹された材料が市場に出回ってきた時に今ある材料とどのように区別、判別するのかなどこれからも色々問題はあると思うが、持続可能なシステムに向けて皆が動いているので悲観するような未来はない筈だ。