弦楽器の弓の長さは、どのような楽器をどこに構えるかによって決まる。人の身体的特徴から自ずと丁度よい長さに落ち着くのである。バイオリン、チェロ、コントラバスの弓はそれぞれ長さが異なる。一般的に低音になるほど楽器のサイズは大きくなり、弓の長さは短くなる。またバロック期にあれだけ多種多様な弓が作られたのは、偏に皆構え方が違ったからだ。
ビオラはどうだろう。バイオリンと兼用できるように作られたような弓もあれば、お化けのような弓もあるが、様々なサイズの楽器があるビオラにこそ弓のテイラー・メイドが相応しいのではないかと思う。小柄な人が大きな楽器を弾く場合、弓を使い切ることが出来ないので弓の長さは短い方が良い。一方で、体が大きく手の長い人にとっては大きな楽器であってもその必要はない。
“ダークでメロウな音が良い“とビオラを弾く方は言うので、ルッキ値(超音波で計測した値)の低い音の伝わる速度が遅い材料を使えば良いのかというと、どうもそういうわけではない。木にはそれぞれ音があり、それがそのまま弓の音になる。イメージとして材料を叩いてボンボンという音がするような材料で作った弓はダークでムーディーな音色の弓に、叩いてカンカン、或いはキンキンといった音のする材料は明るく、華やかな音がする弓となる。
昨年より異なる比重やルッキ値の材料でビオラの弓を作っているが、ビオラ弾きがピンとくる弓はどちらかと言えばルッキ値の高い、音の伝わる速度が速い材料であった。どのようなシチュエーションで弾くのか、そして他の楽器との関係もあるのだろうと、今年あるトリオの演奏を聴いて思った。バイオリンやチェロなどと一緒に弾いた時には負けずに良く通る、楽器の音を際立たせるような弓であることが必要で、ルッキ値の高い材料で作った弓のほうが良いと感じるのかもしれない。次にビオラの弓と向き合う際にはまた色々と試してみようと思う。