首元と手元の反りを削り込んで作るいわゆる“削り弓”は昔の製法であって、今日大半のメーカーが敬遠するものである。目切れが生じるので木の強度が失われるとして、サルトリーなどの弓では真っ直ぐに削った弓を熱で曲げて作っている。古い弓を見る時に個人的に気になるのが、材料の質やアウトルック、そして目切れをしているかどうかと、その木目の角度である。材料は板や丸太をある程度まとめて買うので、メーカーの特徴が最も出やすい。
我々の世代はもうその様なことは出来ないが、丸太で買った場合同じようなクオリティーを持った材料がまとまって採れるため、そのメーカーの作る弓の方向性を決める大事な要素となる。木目の角度は削りはじめるブランクの太さや、どのぐらいの反りを鉋で削り込んでいたのかを想起させる重要な手掛かりとなる。首元から深々と反りを削り込んでいたのか、或いはなだらかに反りを削り込んで後は熱して反り入れをしていたのか、古い弓を見てあれこれ想像すると作業風景が何となく見えてくるので面白い。目切れがある筈のメーカーで目が通っている弓を見ると「後世に作られた弓かなぁ」などと考えてしまう。
目が切れていることが演奏性や音にどのような関係があるのかは詳しく調べていないので自分にはよくわからないが、昔の弓の評価を見れば必ずしも悪くはないのではないかと思う。