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コロナ禍を経て



コロナ前と後では見える景色がやはり違っていると思う。他の業界同様に、弦楽器業界においても多くの人が過去数年の間に廃業していて世代交代が起きている。弓作りではコロナ禍において同時期に脳梗塞をやって工房を閉めた人が2人いる。コロナ禍できっと部屋に籠ってワークベンチに座り、弓ばかり作っていたのだろう。そして心境の変化で弓作りを辞めた人もいる。今年になって知人の弓職人に久しぶりに連絡を取ると、鉋や鑿、黒檀が欲しければ譲るよとのこと。商売道具を手放すということは弓作りを辞めるということだ。実際に彼はそれまで築いた全てをかなぐり捨てて一切を清算し、数か月前にメディスンマンとしてペルーの山奥に移住してしまった。音楽にもともと執着はなかっただろうが、まさかの鮮やかな転身と潔さに唖然としたし、やはり寂しい。日本に彼の材料と道具を届けてくれたN先生とその友人には感謝しかない。長きにわたり弦楽器業界を見つめてこられたN先生は、ペルーに移住した彼をキャリアの当初から支援してきた人だ。別れ際にN先生は「数を作らないとね。値段も上がらないのよね。」と話していた。多くの古い楽器や弓を見て、長年職人達と関わりを持ってきた上で出た言葉だ。ある程度の数が流通しないと遺っていかないし、ディーリングの対象にもならない、それを伝えたかったのだと思う。次の世代の人達がペルナンブーコや黒檀、いずれはメープルの入手が困難になる中でどのようにしてハードルを乗り越えていくのか見当もつかないが、若者の思考で柔軟にやっていくのだろう。自分は今年から修理を教えはじめた。色んな人から教わった分は業界に返していけたらと思う。



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