top of page

サステナビリティを考える


"The history of instrument and bow making is full of materials, once common, that have become more endangered. The materials with the highest level of regulation include Brazilian rosewood, whalebone, tortoiseshell and ivory. Modern makers are experiencing increasing restrictions on the use of certain species of ebony, pearl, lizard and pernambuco. There is growing concern about maple and spruce. This is challenging time that requires increased commitment to education and conservation."


The Scroll Vol.7 No.1 Summer 2022 P.32

VSA Members, We Have a Problem! by Lynn Armour Hanningsより抜粋



この一文を読んだ時、フェーズが一段階上がったなぁと実感するのである。既に一部の産地に規制がかかっている黒檀はもとより、メープルとスプルースが将来、規制の対象に成り得ることを知っている人が国内にどれだけいるだろう。必要以上に危機感を煽るつもりはないが、輸出国であるフランスやドイツ、イタリア、アメリカでは肌感が我々とは異なり、より事態を深刻に捉えている。メープルは植樹をして材料として使えるようになるまで数百年、ペルナンブーコは約30年である。


弓ではペルナンブーコに対する規制の必要性が叫ばれ始めたのは1990年代後半のことである。以来、2007年に約10年をかけてカテゴリー2へ移行し、それから15年程でカテゴリー1へ移行する採決が今年行われようとしている。代替材の話も左程進んでいない。ペルナンブーコに非常によく似た亜種が中米で採れるが、中国の業者が入って多くを持っていくという話を数年前に耳にしているから、こちらもいずれ保護の観点から規制の対象となるだろう。弓においてはいつしか、図らずとも色々な樹種を試したという初期バロックの時代へメンタリティーが戻っていくのかもしれない。


ペルナンブーコにおける一連の経緯を見ると、メープルやスプルースもこれから10年~20年といった時間でいずれは規制の対象になっていくのだろう。当面は一部の産地に規制が掛かることと、音楽家の移動に関するパスポートの扱いなどに焦点があたるかもしれないが、20年といった長い目で見れば業界を支える裾野が消えていくわけで、音楽の在りようが変わっていくのかもしれない。木材としての在庫が豊富にあっても森が消えようとしていれば規制は当然かかるのであって、カテゴリー1になれば研究目的以外の、商用の楽器は入ってこなくなる。今までのように“よくわからないから静観しよう”ではすまされない事態である筈だ。音楽をどうしていくのか、教育はどうなるのか、先人たちが培ってきた文化をどう継承するのか今一度考える時ではないだろうか。この記事を書いたリン・ハニングスさんにコンタクトを取ったところ新たな情報があれば順次以下のサイトに載せていくという。


不明な点も多い。IPCIでは多くの寄付金を集めて25万本以上のペルナンブーコの植樹を2005年以降続けているが、一部は現在直径30㎝程に成長していると数年前のVSAのコンベンションで関係者が話していたが、それらは今どうなっているのだろう。カメルーンではギター会社やドイツのパウルス社が黒檀の植樹を続けている。メープルやスプルースはどうなのか、今後の動向を注視していきたい。

bottom of page