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反りのあれこれ




反りは弓の魂であって、真っ直ぐな棒であるよりかはどんな反りであっても入れたほうが弓としての機能は向上し、面白い。ここ数年色々な弓の形と向き合ってみてあらためて思うことである。ドラゴネッティー・ボウのような弓であっても真っ直ぐで具合が悪ければ取り敢えずアウトワード(外側)にカーブする反りを入れてみると、運弓時にバタついていた弓が安定し、弓に張りが生まれる。幾つか形の異なるオリジナルを参考にドラゴネッティー・ボウを作っていく中で理解したことだ。もともと弓は全て“弓なり”に反っていたのであって、ガドゥルカなどの民族楽器では今でもそのような弓を使用している人達がいる。アウトワードカーブの弓でもスタッカートは出来るが、スティックに反りを入れて徐々に弓毛との距離を離していくにつれてスーパーボールのように反発がピンポイントではなくなってイレギュラーなものとなり、独特の動きをするようになる。インワードカーブのモダンボウでは反りを深く入れていくにつれて反発の焦点が合ってくるので、その辺りの違いが面白い。ドラゴネッティーの演奏は勿論聴くことはできないが、“雷鳴の轟くような”と表現された暴力的?な音は彼が使っていたであろう弓から想像ができるのである。


S字の反りもある。17世紀にはヘッドの低いパイクヘッドやスワンビル(白鳥の口ばし)の弓のようにS字にカーブしたものが作られている。ルネサンスボウとバロックボウの一番の違いはここにあったと考えている。モダンの弓ではS字の反りなどおぞましく考えられないが、低いヘッドの弓では先端のしなやかさを出す為とより均等なボーイングに近づける為に、先端にアウトワードカーブを入れて真ん中にインワードカーブを入れたものが多い。弓毛にテンションをかけて演奏する状態にするとやや弓なりにアウトワードカーブするものだ。単にアウトワードカーブしたルネサンスボウよりやはり弾いていて面白い。タルティーニが前期に使っていたクリップインの弓もこのタイプである。後期に使っていた弓はヘッドが高くいわゆるイタリアンスタイルの弓で、トランジショナルボウの走りである。これも先端はやや外側に膨れており、製作された当初は真ん中に前期の弓より反りが深く入っていた筈だ。このタイプの弓は当時一定数作られたようで、イタリアの他アメリカのナショナルミュージックミュージアムなど各地の博物館で同じような形の弓を見ることができる。出来る事は異なるだろうが、前期、後期の弓どちらでもきっと悪魔のトリルを弾けたに違いない。


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