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弓とフェイスプレート・新素材



18世紀前半のバロックボウにはヘッドを守る為のフェイスプレートがついていなかった。当時弓は弓毛が擦り切れるまで使用され、やがて廃棄されたものも多かったと聞く。当然強度や耐久性については考えておらず、ヘッドを衝撃や毛替えを行う際のダメージから守る為のフェイスプレートも必要がなかったのである。


象牙のフェイスプレートが歴史上に登場するのは18世紀後半に入ってからで、かの有名なマリー・アントワネットによって一つの職業に専念しなければならないというギルドの決まりが撤廃され、やがて職人達が貝、金銀など様々な素材をこぞって弓に使い始めるのがこの時期である。象牙はその美しさと強度や耐久性に優れていることから、ボタンなどのパーツにいち早く使われた素材である。


東京の蔵前に象牙などの印材を扱う店があり、私はマンモスの牙などの端材を探しにこの店に10年以上通っている。日本国内ではマンモスの牙などに比べ象牙の方がはるかに多くストックされている為、流通している量も多く値段も象牙の方が安いのだと何年も前にこの店のご主人が話しておられた。しかしそれ以来状況は大きく変わった。


ここ数年、象牙の規制を巡る議論は二転三転し、弓のフェイスプレートに限って言えば現在緩和方向に転じている。数年前に比べると、弓を持って渡航する際に空港での没収を恐れて身構えることはまずなくなったと言えるだろう。数年前まではマンモスやイミテーションがついていても空港で没収されやしないかと不安に思ったものである。とはいえ、ワシントン条約で象牙の国際取引は禁止されており、ほぼ全てのメーカーが象牙の使用を完全にやめ、骨やマンモス、あるいはカゼイン樹脂などで作った人工象牙に切り替えている。一時期コンテンポラリーメーカーの間で金属製のフェイスプレートが流行った理由としてその様な背景がある。現在日本国内では、個人であっても本象牙を使用して事業を行う際には一般財団法人自然環境センターなどというところに特別国際種事業への登録料などとして高額な料金を支払い、届け出なければならない。


そんな中、近年利用者が増えているのがチップ・アーマー(Tip Armor)である。メーカーの説明ではAMW-814というポリマーを使用していて、骨やマンモスに比べ柔軟性はあるものの、まあとにかく硬い。これをOhio州のDoverにあるDavid Warther & Co.が開発し、数年前より販売している。象牙や人工象牙を専門に扱う業者だ。従来の象牙代替材の欠点は総じてもろく、欠けやすいことである。フェイスプレートの役割はヘッドを守ることなので、従来の代替材は役不足である。


Matt Wehlingは顧客から特別な要望があった場合を除き、チップ・アーマーに全て切り替えたと以前話していた。弓の歴史を見ると何か新しい技術や素材が伝統という泉に投げ入れられた場合、波紋が隅々まで伝わるまでおよそ20年かかる。その間、必要な技術は残り、そうでないものは忘れ去られていくのである。チップ・アーマーはおそらく残っていくのではないか。


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