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弓の100%



我々の多くは普段自身で毎日使っている弓で出来ることの全貌を知らない。単に調整が必要な場合もあるが、前線で活躍する音楽家とは弓の使い方がそもそも違うし、弓の性能を100%出し切るような極端な使い方をするシチュエーションもそうあるわけではない。フィドルの人は弓の持ち方も様々で、我々の知るところの弓とはまた異なる動きをするかのようである。作る側としても2Cellosの演奏シーンにあるような激しい演奏を想定して楽器や弓を作る職人はまずいないだろう。


半年に一度の毛替えで済む方がいる一方で、ある方はどんなに強い毛を使っても弓数本の毛束のそれぞれ2/3程を3カ月で擦切ってしまう。一つ妙に思っていたことがあって、この方の使用しているレオナール・トゥルトの弓だけ毎回弓毛がほぼ切れていないのである。使用する出番があまりないのだろうと思っていたが、「この弓はあまり毛が切れないです。」と最近話されていたのでどうもそういうことではないらしい。


理由の一つとして考えられるのが弓毛と弦が点で当たるか面で弦に接地しているかである。多くのモダンボウは一点で弦に当たり続ける為に端から徐々に切れていく。我々は普段弓毛の決まった箇所しか使用していない。特に弓を返す際には端の一部を使用するのみである。レオナール・トゥルトのこの弓は、弟が同時代に作った弓より毛束の幅がひろく安定感もあり毛束全体で弦を捉えている感覚がある。もう一つの理由としてはフロッグとスティックに多少ガタがあり、演奏時に毛束が弦に対して面で当たるように平行になっているのではないかと思う。修理、修復をする者からするとあまりお勧めは出来ないが、弓毛全体を使うということだけを考えると、毛束を弦と平行にする為にフロッグの底面を傾けるのはありだと思う。ベンワー・ローランが以前に開発しパウルスと共に商品化したGallianeというフロッグがあり、一時期調べたことがある。自然に大きな音を途切れることなく演奏できるというもので、今回の一件でこれを思い出した。「弓は進歩しなければならない」と彼は言い、多くの弓職人は同じ考えのもとに新たな弓作りに日々励んでいる。今までになかった弓をいつか作るということも忘れずにいようと思うのである。

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