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弓のメンテナンス Part1-ニスについて



練習を終えたら、弓をケースにしまう前に軽くスティックを乾拭きして松脂をふき取ってほしいものだ。松脂落としも市販されているが堆積した松脂はなかなか取れないので、しびれを切らした業者はキシレンやベンゼンといった体によろしくないものを使って落とすことがある。その上で必要であればフレンチポリッシュで数回ニスを塗っておく。弦にスティックが当たってニスや場合によっては木が摩耗している場合には、反りの調整をしてスティックの腹が弦に当たらないようにした上でニスを直しておくことが望ましい。またバイオリンやビオラ弓の手元ハンドル部分で右手小指が当たる(置く)箇所は、フロッグのメネジを収める為のモ―ティス(ほぞ穴)がすぐ下にあることを知らない人が多い。八角上部、小指による摩耗を放置しているとやがて木が薄くなりモーティスまで貫通して穴があくか、ハンドル部分が弓のテンションに負けて折れるので注意が必要だ。手元の摩耗に気付いたらニスを直した上で保護テープを貼っておくと良いだろう。革を貼るのもありだが革は汗や湿気を吸収するので、練習後はよく乾かした上でケースに収納する。保護の革を交換する際に革の下の木が湿気によってふやけてモロモロになっていることを見かけることがあるからだ。


小指を置く場所の下のモーティス

刷毛塗りでこってりニスを塗ってある古い弓を見ると何かが違うと思ってしまう。伝統的に弓のニスはフレンチポリッシュでさっと薄く塗って仕上げるのが一般的である。シェラック4に対しベンゾイン(安息香)1を入れ、それをアルコール4で溶解させる。人によってスパイクラベンダーオイルを混ぜるなど調合が異なるが、大体皆このようなものだ。人類が虫や木から採れるシェラックやベンゾインを使い始めた歴史は古く遥か昔のことで、13世紀には欧州での使用が既にあったが、アジア原産のこれらの材料を木製品の塗料として使い始めたのは19世紀のことである。それまではオイル仕上げやワックス仕上げが主流であった。


イギリスのヒル商会ではリンシードオイルに乾燥剤を入れたものを何度も塗っては乾燥させるということを繰り返し行った。ヒル系の人達の作った弓が汗による変色や浸食に強いのはこの為である。フランスでもトゥルトの時代にはオイルでさっと仕上げたのではないかと言う人がいるが、木製品へのシェラックの使用が19世紀になってからということを考えると当時はオイル仕上げであったというのは妥当な考えである。そもそもそれまで主流であったスネークウッドの弓はシェラックニスを必要としないので、ペルナンブーコでモダンボウを作るようになっても暫くはオイル仕上げが主流であった筈だ。職人仲間にシェラック仕上げの楽器のことを‟縁日のりんご飴“みたいでよろしくないという人がいるが、当時の多くの職人達もそれに似た感覚でツルピカの楽器や弓を眺めていたかもしれない。自分は光っているものは取り敢えず何でも好きなのであって、オイルニスのギラギラもアルコールニスのツルピカもどちらも大好きである。


続く

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