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弓の源流を探る Part2-17世紀


「17世紀後半まで弓にはヘッドと呼ばれる先端部分が存在しなかった」


これは普段モダンボウを扱う者にとって何とも恐るべきことであって想像することが難しい。1650年以前の絵の描写、或いは理論の挿絵などから一部の例外はあったものの、17世紀後半までの弓はスティックの先端に明確なヘッドというものがなく、スティックの延長線上に弓毛が付いているというイメージの物であったことがわかっている。

ヘッドの境目がわかりにくい弓

これは楽弓の起源である武器の弓を思い浮かべるとわかり易いかもしれない。このような弓では先端まで普通に弾くとスティックにぶつかってしまう為、演奏に使える範囲が狭くなる。また重心は手元寄りになるので先弓1/3ではしっかりとした発音ができないが、それがこの時代の弓の自然な発音であり、良さでもある。研究者はバイオリンの仕様と共に弓についても“Reedy”(弱く、細く鋭い)という言葉を繰り返し使いこの時代の音を表現する。“Reedy”サウンドを考える上で欠かせないのが弓毛の量である。毛の量は音量や音色に影響がある。毛の量は果たしてどのくらいであったのかいつもバロックボウでは議論となるが当時Mersenne(メルセンヌ)は80本~100本であったと記している。ヘッドらしきものが無いのであればそれ以上の本数(モダンボウでは150本前後)を詰めることもできなかっただろう。

Renaissance Bow
ルネサンス期の弓

初期の17世紀は音楽やバイオリンの在り方が大きく変化していった時期だ。これは楽器や弓の形が大きく変化したという訳ではなく、前世紀のダンスの伴奏か、ボーカルを重複するという役割からバイオリンという楽器の可能性にようやく皆が気付き始めたのがこの時期であったらしい。実際にルネッサンス期の弓を再現したもので色々弾いてみると現代ボウのレパートリーもある程度弾けてしまうし、楽器本体も指板が若干長くなったりしたものの、形が大きく変わった訳でもない。単に人々のメンタリティーが変化したというのも納得できる。ジョバンニ・ガブリエリ(Giovanni Gabrieli) やモンテヴェルディ(Monteverdi) がカンツォーナやオペラにバイオリンを使い始め、1610年には初めてバイオリンのソナタがイタリアに登場する。17世紀は大きな流れとしてバイオリンに二つあった役割のうち、ボーカルを重複する役割は徐々に影を潜め、抽象表現である器楽曲での使用が主流となっていく。イタリアにおけるソナタの誕生は17世紀後半に向けて弓に変化をもたらすこととなる。


(続く)




参考文献 David D. Boyden, The History of Violin Playing from its Origins to 1761

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