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弦と楽器と弓 Part1

弦については既に多くの研究がなされているので深く掘り下げることはできないが、特に低音の弓を知る上で避けては通れないテーマだと思う。弦楽器の進化は偏に弦の進化によるものといってもいい。参加している製作者グループのアンドレアス・プロイスさんがちょっと前に話していたことを聞いてハッとしたが、古い楽器に張ると楽器を痛めるような職人泣かせの強い弦を弦メーカーは今でも新たに作り続けているのであって、我々が現在セットアップや楽器作りの基準としている数字が通用しなくなる時もいつかは来る。忘れがちなことだがそれを進化と取るか否かは別として、弦によって楽器のありようが変わっていくことはいつの時代であっても現在進行形なのである。


17世紀に様々な楽器に対する模索が行われ、17世紀後半にはワウンド・ストリング(線巻の弦)が登場する。フランスのマラン・メルセンヌ(Marin Mersenne)が著書のTraite de l’harmonie universelleで、いわゆるメルセンヌの法則を述べたのは1637年のことである。周波数に関するもので、1オクターブ音を高くするには弦の長さを1/2にする、弦の張力を√2倍に上げる、或いは長さあたりの質量を2の平方根で割って質量を小さくすればよい。一方、低い音をだすには弦長を長くして、張力を下げ、弦を太くすればよい。弦と周波数の関係を解き明かしたことで、その後のワウンド・ストリングの発明に繋がることとなる。

演奏する上では、全ての弦の張力が均一でないと移弦するたびに弓で常に圧力をコントロールしなければならないので、低音楽器の低音弦は高音弦に比べ極端に太かったといい、イコールテンションが基本であったという。また古楽器セットアップの第一人者で多くのオリジナルのネックや指板を調査、研究したウィリアム・モニカル(William Monical)は当時の低音弦側の指板は弓のクリアランスを確保するために極端に落ち込んでいると述べている。弓の形もそのような弦や楽器のセットアップに合わせたものであったに違いない。


John Playford

その昔、町の屠畜場の近くにはガット・スピナーと呼ばれる人々が住んでいて、腸を譲り受けてはガットのコードを生産していた。羊や山羊の腸を何本も束ねて撚ったガット弦では径を太くし過ぎると硬くなって振動が起きにくくなり、弓を過剰に強く押し当てて弾く必要がある為、当時の人たちは楽器を大きくする選択をした。大きな楽器で弦長を長く取り、細めで(小ぶりの楽器の太い弦に比べて)しなやかな弦を使って低い音をだしていたが、特にビオラやチェロにおいて楽器が大きくなるにつれて左手で押さえることが難しくなる為、弦の質量を大きくすることを模索しワウンド・ストリングが考案された。発明の時期を示すものとして引用されることが多い、イギリスのジョン・プレイフォード(John Playford)の著書からわかるように、1664年には既に弦に銅線や銀線を巻き付けた線巻の弦が作られており、これによって低音楽器は小型化に向かうこととなる。 


続く

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