弓の毛は絵や書をかく時の筆のようなもので、どのような毛を使用するかで筆圧や筆跡に影響がでることに似ているかもしれない。水彩に使うコリンスキーの筆と油絵用の豚毛の筆では出来る事や用途が異なる。多種多様な馬毛が市場に出回る中で、弾いて明らかに違いがあるものもあれば、自分では違いがよくわからないものもある。新たな馬毛では取り敢えず引っ張りテストをやることにしていて、それを5年程続けている。毛束からランダムに選んだ10本に機械的に力をかけて引っ張っていき、切れた距離を計測してその平均値を出して比較する。入荷時にオイルを多く塗ってあると思われる馬毛もあるのでテストの結果をそのまま受け入れることはできないが、自分の感覚と併せて毛束を評価するようにしている。
引っ張りテストをやるとすぐに切れる毛、なかなか切れない毛など様々である。好みは人それぞれであり、自分とは好みが真逆の方も中にはいるので一様には言えないが、バイオリンやヴィオラでは適度なしなやかさが必要で個人的にはテストで比較的に早めに切れる毛が合っているのではないかと思う。一方でチェロやコントラバスに同じ毛を張ると物足りなさを感じるので、もう少し強い切れない毛を張ると具合が良いと思う。現在市場に出ている毛を測ると多くの毛がやや強いか強めの傾向にあって、バイオリンやヴィオラに適した馬毛が少ないように思うのは気のせいだろうか。